インターナショナル・ビアコンペティション 2002 審査講評

インターナショナル・ビアコンペティション
チーフジャッジ 田村 功
審査委員長 小田良司


 今回の「インターナショナル・ビール・コンペティション2002」の審査は、内外合わせて55社から125銘柄のビールの参加を得て、10月12日に大阪・梅田で行われた。景気の低迷にもかかわらず、多くのご参加をいただいたことに、まず感謝の意を表したい。

 審査を終えてとくに印象に残ったのは、今回はドイツ・タイプやイギリス・タイプを代表するスタイルのいわゆる定番ビールに優れたビールが多かったことである。たとえば、ボヘミア・ピルスナー、ヨーロピアン・ピルスナー、ケルシュ、アルトビール、イングリッシュ・ペールエールなどの部門に参加した銘柄については、いずれも完成度の高さが際立っていた。これらのスタイルは、風味やアルコール度数の点からいって一般の消費者に親しまれやすく、飲みやすさの点でも多くの人々にアピールするビールである。地ビールの伸び悩みの中でなんとか多くの消費者を獲得しようと、こうした売れ筋のビールの品質向上に各地ビールメーカーが努力した結果と見ることができよう。これらの部門にエントリーした銘柄はいずれも甲乙つけがたい出来栄えであり、とくに金賞と銀賞、銀賞と銅賞の間にはそれぞれ紙一重の差しかなかった。

 これに引き換え、大変に残念であったのは南ドイツスタイル・ヴァイツェンである。これについては、以前は本場のドイツのバイエルンをしのぐかと思われるほど優れたビールが各地ビールメーカーから多数エントリーされ、まさに百花繚乱ともいうべき様相を呈していたものである。しかるに今回はエントリー数において大幅に減少したうえ、出来栄えにおても金賞と銀賞を受賞したビールを除くと昔日の面影を見ることができなかった。ヴァイツェン独特の風味が消費者に飽きられてきたという人もいるが、もしもそうした理由でメーカーが力を入れなくなったとすれば、まことに寂しいかぎりである。

 日本の伝統的な穀物である米を原料の一部に用いたビールも、今回はエントリー数が増えた。嬉しいことに、その味わいが非常に洗練されてきており、昨年に比べて驚くほど出来がよくなっているといっても過言ではない。そうした品質向上の結果は、5つの部門(エクスペリメンタル・ビール部門、ヨーロピアンピルスナー部門、アメリカン・プレミアムラガー部門、スコッティッシュ・エクスポートビール部門、酒イースト・ビール部門)への入賞につながった。米を副原料として用いている大手メーカーのケースとは違い、地ビールメーカーの場合は米や酒イーストの持つ独特の風味で地ビールらしい特徴をつけるべく挑戦してきたわけで、今回多数の入賞ビールがでたことで他社の刺激になれば幸いである。

 「インターナショナル・ビール・コンペティション」は、同じく日本地ビール協会が主催している「ジャパン・ビアカップ」よりも審査カテゴリーを細分化しているため、ベルジャン・ウィートビール、インディア・ペールエール、ストロングエール、バーレイワイン、インペリアル・スタウトなどが別々に審査される。その結果、こうしたスペシャルティ・ビールの健闘ぶりが一般の目にも明かとなった。概してスペシャルティ・ビールは、アルコール度数が高く、風味も濃厚であるため、商売としてあまり期待できないと言われているが、必ずしもそうとは言えまい。たしかに一度に何杯もグラスを空けるのには向いていないが、スタンダードなビールよりも値段を高く設定できるし、賞味期限を大幅に長くすることができる。また、風味の点でも明確な個性化・差別化が図れやすい。このような付加価値の高いビールを上手に活用すると、地ビール活性化にも大きな力となるのではなかろうか。すくなくとも、今回入賞したそれぞれのスペシャルティ・ビールは、地ビールに対する消費者のイメージを改めるうえで強力な武器となると断言してもよい。 

 最後に、エントリーしてくださった醸造会社と販売会社の各位に重ねて心から謝辞を申し上げるとともに、審査に協力していただいたジャッジとディレクター各位に対しては労いの言葉を捧げたい。


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