インターナショナル・ビアコンペティション 2003 審査講評

インターナショナル・ビアコンペティション
チーフジャッジ 田村 功
審査委員長 小田良司

「インターナショナル・ビール・コンペティション2003」の審査は、96日午前10時より東京農業大学グリーンアカデミーホールで行われた。今回は、50社から123銘柄のビールおよび発泡酒が参加した。それらが85部門に分けられ、それぞれのスタイルごとに「外観」「アロマ」「フレーバー」「ボディ」「全体印象」など5項目の評価を経て、すでに発表された通りの入賞ビール(発泡酒を含む)が選出された。

景気の低迷でビールの消費量が伸び悩んでいるが、それとは裏腹に地ビールの品質は着実にレベルアップしていることが今回の審査でも明らかになった。色度数、アロマ、フレーバーなどの点でスタイルの基準からやや外れているビールもいくつかは見られたものの、ビール本来の風味を損なうオフフレーバーについては皆無に近い状態であった。そういう意味で、とくに地ビール各社の技術レベルがさらに一段と向上したことが窺えて大変心強い。そういう印象を強くした審査会であった。

したがって審査においては、入賞候補として遜色のないビールが例年以上に増え、最終的に入賞の可否を決したのは「フレーバー」の項目での「状態」「苦味と甘味のバランス」「アフターテイスト」に関わる微妙なポイントの差であった。これについては酸化の進行程度とも大いに関係するので、ボトリングしてから日数の経っていないものほど有利になる。そのため、どれとも優劣が付け難いときは、「鮮度の競争」で入賞を決めた部門も少なからずあった。

部門別に見ると、今回はジャーマン・ピルスナー、ボヘミア・ピルスナー、ヨーロピアン・ピルスナー、ドルトムンダー、ミュンヒナー・ヘレス、フリースタイル・ライトラガーなど、合わせて35銘柄のライトラガー系ビールが出品された。全体の4分1と大きなウエイトを占めたわけで、この中には外国の輸入ビールが混じっているものの、ラガーといえばデュンケル、ボック、シュヴァルツビールなどのダーク系が主流だった数年前のコンペティションに比べて大きく様変わりした感がある。もとより「インターナショナル・ビール・コンペティション」に出品されたビアスタイルの傾向がそのまま全国の地ビール会社で造られるビアスタイルの傾向と同じではないが、これだけライトラガー系ビールが増えてきた背景には、地ビール消費者の底辺を広げようという各社共通のマーケティング戦略が窺えるのではないだろうか。事実、出品されたビールの風味の設計にもそうした戦略が色濃く反映され、たとえば本来ホップのアロマや苦味を特徴とするジャーマン・ピルスナーやボヘミア・ピルスナーについて見ると、アロマ・苦味ともにスタイルガイドラインで許される最低限のレベルに抑えて、大手メーカーのライトラガー・ビールに馴染んでいる人でも抵抗感なく飲めるように仕上げているものが多かった。

ドイツ上面発酵系のビールのうち、南ドイツスタイル・ヴァイツェンについては、エントリー数こそ数年前の勢いは薄らいだものの、内容的には決して本場ドイツのヴァイツェンに引けをとらない出来映えのものばかりであった。とくに入賞したビールは、クローヴ香とバナナ香を穏やかに抑えみずみずしい口当たりや爽やかな喉越しとの調和に工夫を凝らすなど、完成度が非常に高い。完成度の高さでは、ドイツ上面発酵系のビールのケルシュも同様で、入賞した3銘柄の上品に抑えたアロマ・フレーバーとクリーンでみずみずしい味わいは本場のケルンでも十分通用すると思われる。

英国エール系では、以前と比べてペールエールやブラウンエールのエントリーが少なくなった代わりに、IPA、ロブスト・ポーター、バーレイワインなど濃厚な味わいのスタイルが増え、しかもそれぞれが完成度の高さを競った。とくに指摘すべきことは、以前に見られたような一部のマニアだけにしか受け入れられない個性を主張し過ぎたビールが陰を潜め、ブルーワーの洗練された感性が感じられるビールというか、全体の調和に重きを置いたバランスのよいビールに仕上がっていることだ。この手のスタイルはややもするとマニアだけのビールになってしまいがちだが、出品された銘柄を見る限り、より多くの人々に受け入れられるすぐれた出来映えになっている。

以上のビールを始め「インターナショナル・ビール・コンペティション2003」の入賞ビールは「インターナショナル・ビール・サミット2003」で試飲できるので、ビール愛好家の方々にはぜひお誘い合わせの上ご来場いただくことを切にお願いしたい。

なお、今回もビールをご出品いただいたビールメーカーなびに販売会社の各位には、心からお礼を申し上げたい。また、多忙な中ボランティアでビールの審査と準備・進行・管理にあたってくださった日本地ビール協会会員諸兄姉には厚く感謝の意を表したい。

チーフジャッジ 田村功 筆


表彰式(10月11日13時)IBS2003の会場   HOME