インターナショナル・ビアコンペティション 2004 審査講評

インターナショナル・ビアコンペティション2004

審査委員長 田村 功

 「インターナショナル・ビール・コンペティション2004」の審査は、9月20日午前10時より東京農業大学グリーンアカデミーホールで行われた。今回は、55社から141銘柄のビールおよび発泡酒が参加した。エントリーされたスタイル・カテゴリーは、全部で47部門。それぞれの部門ごとに「外観」「アロマ」「フレーバー」「ボディ」「全体印象」など5項目の評価をもって、金・銀・銅の3賞が競われた。  

 今年の審査でエントリー数が多かったものを部門別に見ると、ヘーフェヴアイツェン、ヨーロピアン・ピルスナー、ケルシュ、ジヤーマン・ピルスナー、アルトなど、ドイツ系のスタイルだけで全体の40パーセントに達し、他を圧倒していた。  なかでも、最も多いヘーフェヴァイツェンのエントリーは14銘柄で、全体の10パーセント近くを占め、地ビールなどのクラフトビールを代表するスタイルであることが改めて実感された。
出来栄えについては、しかし、銘柄によってムラがあり、半数が賞争いの土俵に残ったが、残りの半数はヘーフェヴァイツェンの条件を満たしていなかったりオフフレーバーを伴っていたがために、審査の早い段階で消えて行った。なかには、酵母入りゴールデンエールに近い味わいで、ヴァイツェンの特徴であるクローヴのアロマがまったく感じられないものも見受けられた。造り手としてはクローブ香を消すことで他との差別化を試みようとしたのかもしれないが、ここはやはりヴァイツェンに欠かせないクローヴ香をしっかりと保持しながら完成度の高さで他との違いを出すのが本道であろう。  

 ヘーフェヴァイツェンに次いでエントリー数の多かったのがヨーロピアン・ピルスナーで、全体の8パーセント弱、実数では11銘柄であった。今回このスタイルが多かったのは、例年になく暑かった夏の需要に応えるために淡白で水代わりにガブガブ飲めるビールに供給をシフトした結果とも受け取れるが、出来栄えはいずれも上々であった。このスタイルの身上はなんといっても「軽い・スッキリ・爽やか・キレ」の4点に尽きる。これらの点に関して、とくに入賞候補に残った4銘柄はずば抜けたレベルにあり、審査員の間で議論が紛糾し審査時間が大幅に伸びたほどである。  

 ケルシュのエントリー数はこのところ毎年少しずつ増え続けて今回は11銘柄。ヨーロピアン・ピルスナーと同じく全体の8パーセント弱を占めるほどのメジャーなスタイルに躍り出た。ケルシュというスタイルのビールは、ホップとモルトのフレーバーが控え目で、かつ上品に感じられなければならない。苦味も軽く、後味に爽やかな余韻が求められる。香りと味がデリケートなため、渋味や酸味、それにオフフレーバーがあると、たとえ低レベルであっても目立ちやすい。歴史と伝統を誇る本場ケルンのブルーワーであっても、常にクリーンでみずみずしいケルシュに仕上げるのは容易でないと聞く。その上、上面発酵でありながら下面発酵と同様に長期間の低温熟成で味を磨きあげる必要がある。
今回エントリーされたケルシュの数を見て、そうした難しいビールに挑戦するメーカーが増えてきたことは、非常に喜ばしく感じられた。しかも、それらの多くがドイツの水準に間違いなく達しており、なかでも金賞を射止めた銘柄は他を圧倒する出来栄えであった。とはいえ、それ以外の銘柄も上品に抑えたフレーバーとクリーンな味わいに関しては遜色なく、状態(鮮度)次第では入賞が逆になっていたかもしれない。  

 ジヤーマン・ピルスナーも前述したようにエントリー数が多かったが、惜しいことに状態の良くないものが多数見られた。コンペティションでは、基本がいくら良く出来ていても僅かな劣化が勝敗に大きく響く。3賞に選出されたビールは鮮度の点でも完成度の点でも高いレベルにあったが、それ以外にも、もっと状態が良ければ入賞を争うことができたかもしれないと思われる銘柄が多くあったことを強調しておきたい。

 アルトに関しては、エントリー数10銘柄、全体の7パーセントを占めた。アルトは今回になって激選区となった部門で、多くのメーカーが入賞を虎視眈々と狙って出品したことがうかがえる。スタイルから外れるものが一、二あったとはいえ、その他はおしなべて非常にレベルが高く状態も良好であった。いずれも甲乙付け難く、最後はモルト・フレーバーのレベル、甘味と苦味のバランス、アフターテイスト、ボディの観点から、最も調和度の高いビールに金・銀・銅の3賞が与えられた。

 英国エール系ビールのエントリー数については、残念ながら昨年と同様に減少傾向にあることが否めない。 とくにイングリッシュ・ペールエールとブラウンエールの減少が大きい。IPA、ストロングエール、バーレイワインなどエールならではの濃厚な味わいのスタイルも、それぞれ片手の指に満たない出品数であるが、こちらは数に反比例して出来栄えの方は見事であった。とくに「他のストロングエール」の部門で金賞を得たビールは審査員たちを感動させた絶品である。

 一時鳴りを潜めいていたアメリカ系エールのエントリー数が再び増えてきた。アメリカン・ペールエールについては、いずれもホップのアロマと苦味を強烈に主張しながら全体をバランスよくまとめるという難作業を見事にクリアしている。アンバーエールの場合、アメリカン・スタイルとしてはホップ・アロマと苦味のレベルを低レベルに仕上げたものが多かったとはいえ、いずれも全体のバランスとドリンカビリティーに優れ、審査員から高い評価を得た。入賞したビールは、紙一重の差で他を抑えたと言ってよい。

 最後に、フリースタイルについて触れておきたい。この部門に今回出品されたビールを見る限り、どの部門に入れてよいか迷った挙げ句に、ここにエントリーしたと思われるものが多々あった。フリースタイル部門の主旨は、「ブルーワーのオリジナリティを競うこと」にある。既存のスタイル基準に捕われずに造ったビールで、かつ既存のスタイルにはない特徴や主張が感じられるビールを歓迎したい。

 今回もビールをご出品いただいたビールメーカーなびに販売会社の各位には、心からお礼を申し上げる。また、多忙な中ボランティアでビールの審査に参加し、準備・進行・管理にあたってくださった日本地ビール協会会員諸兄姉には厚く感謝の意を表したい。

審査委員長 田村功


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