インターナショナル・ビアコンペティション 2007 審査講評

インターナショナル・ビアコンペティション
審査委員長 田村 功

 「インターナショナル・ビール・コンペティション2007」の審査は、8月26日午前10時より東京墨田区・すみだ産業会館で行われた。今回は、55社から140銘柄のビールおよび発泡酒が参加した。スタイル別には、ボトル部門で38カテゴリー、ドラフト/ケグ部門で29カテゴリーであった。例年のごとく、それぞれのスタイル・カテゴリーごとに「外観」「アロマ」「フレーバー」「ボディ」「全体印象」など5項目の評価をもって、金・銀・銅の3賞が競われた。

 今年の審査でエントリー数が多かったカテゴリーのトップ3は、ボトル部門でケルシュ、アルト、ジャーマン・ピルスナーの順である。ケルシュとジャーマン・ピルスナーは2003年から連続してエントリー数の最上位を占めるようになり、近年では最も競争の激しいスタイルとなっている。これに今年はアルトが加わり、上記の3つが今日の地ビールを代表するスタイルとして定着した観がある。注目すべきは、エントリー数が多いということだけでなく、出来栄えの点でも甲乙つけるのに苦慮したほど非常にレベルが高いことだ。いずれもビールとしての技術的完成度においては遜色がなく、すべてを飲み比べたうえで審査員全員がプラスアルファの魅力を最も強く感じとった3ビールを入賞とした。
 ケルシュ、アルト、ジャーマン・ピルスナーに関するかぎり、勝敗を決するのは、もはや造り手の「技術」ではなく「感性」であるという印象を受けた。

 ボトル部門で最も印象に残ったスタイル・カテゴリーとしては南ドイツスタイル・ヘーフェヴァイツェンがある。エントリー数ではトップ3に入らなかったが、そのすべてが秀でた完成度を見せてくれた。クローヴ香を基本としたアロマ・フレーバー、ごく弱く抑えた苦味、小麦麦芽による膨らみのあるボディ、みずみずしい飲み口……これらが見事に調和した逸品揃いであった。今回出品されたボトル部門のヘーフェヴァイツェンは、入賞したビールはもちろんのこと選外となったビールを含めて、本場ドイツのヴァイツェンの平均的なレベルをはるかに凌駕していると断言してよいだろう。

 そのほかにボトル部門で印象に残っているものに、ゴールデン・エールとアメリカン・ペールエールがある。ゴールデン・エールは最近3、4年前から少しずつエントリー数が増える傾向にあるスタイルで、風味の特徴は大手メーカーの淡色ラガービールに比較的近い。つまり、ラガーのようなスッキリとしたみずみずしい口当たりと穏やかな苦味を持ち、ホップアロマは造り手の自由意志で強くしても弱くしてもよいとされている。今回エントリーされたビールはいずれも、こうしたスタイル規準をクリアしているうえに、クセのない綺麗な味わいに仕上がっているものばかりであった。
 地ビールは濃厚な味のものばかりと誤解している消費者には、一度ゴールデン・エールを飲んでみることをお勧めしたい。今回エントリーされたゴールデン・エールならどれを飲んでもそうした誤解が解けるばかりでなく、地ビール嫌いの人も地ビールの美味しさに開眼するに違いない。

 アメリカン・ペールエールは、グレープフルーツ香を持つカスケードなどアメリカ品種のホップ香と苦味を強調したビールで、大手メーカーの量産ビールとの違いが歴然としているためか、7、8年前までは10社を超える多くの地ビールメーカーが造り販売していた。その当時は、アメリカの出来の悪いクラフトビールを真似したようなアメリカン・ペールエールが少なからずあったが、そうしたビールはいつのまにか淘汰された。今日まで生き残っているアメリカン・ペールエールは、さすがにレベルが高い。今回の審査に参加したビールは、すべてスタイル規準を完全にクリアしているうえに、味が綺麗でバランスも素晴らしい。なによりもドリンカビリティーが大きく向上したことが、一昔前のアメリカン・ペールエールとの違いである。

 ケグ/ドラフト部門では、南ドイツスタイル・ヘーフェヴァイツェンとジャーマン・ピルスナーが、今年のエントリー数の最多スタイルであった。このうちヘーフェヴァイツェンについては、大部分がアロマ・フレーバーともにスタイルをクリアし鮮度・状態の点でもきわめて良好であった。しかし、ヴァイツェンの最重要キャラクターであるクローヴ香がほとんど感じられないビールが2つほどあったことを認めざるを得ない。この2つのビールの造り手はヴァイツェンに馴染んでいない消費者にアピールしたいと考えてクローヴ香を弱める方法をとったのかもしれないが、結果として南ドイツスタイル・ヴァイツェンのスタイル規準から外れてしまった。

 ジャーマン・ピルスナーについては、ボトル部門と同様に完成度が高くアロマ・フレーバーのバランスや鮮度の点でも審査員を唸らせるものが多かった。しかしながら、色度数が3-4SRM(6-8EBC)の基準範囲よりも濃いために、ジャーマン・ピルスナーのスタイルに該当しないと判断されたビールが1点だけあったことは残念である。色が濃いということは、単に色だけの問題に終らずに、ジャーマン・ピルスナーにとって致命傷となるモルト・アロマが強調されることにもなるので要注意である。

 今回の審査を通じあらためて感じたことは、日本の地ビールにはじつに多種多様なスタイルがあるということである。冒頭でも述べたが、今回はボトル部門で38カテゴリー、ドラフト/ケグ部門で29カテゴリーがエントリーされた。この「インターナショナル・ビール・コンペティション」に参加していないメーカーまで視野に入れると、日本で造られているビアスタイルの数はおそらく50種を下らないと思われる。こんなに多様なスタイルのビールを造っている国は、ベルギーとアメリカと日本だけである。その意味では、日本はビール王国になったと言っていいかもしれない。

 ただし、同じスタイルのビールを造っているメーカーは少数である。今回の審査でも、1点だけしか出品されていないスタイル・カテゴリーが19もあった。この中には、出品したメーカー1社しか造っていないというスタイルもある。同じスタイルを複数のメーカーが造り合い競い合うことによってこそ、そのスタイルの品質向上が期待できよう。地ビールメーカーの皆さんには、造り慣れているスタイルだけでなく、新しいスタイルのビール造りにも積極的に挑んでほしいものである。

 今回もビールをご出品いただいたビールメーカーならびに販売会社の各位には、心からお礼を申し上げる。また、ボランティアでビールの審査に参加してくださったブルーワーやジャッジの皆さん、準備・進行・管理にあたってくださったディレクターの方々には厚く感謝の意を表したい。

以上

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