インターナショナル・ビアコンペティション 2009 審査講評

インターナショナル・ビアコンペティション
審査委員長 田村 功

 「インターナショナル・ビール・コンペティション2009」の審査は、89日午前945分より東京・大田区産業プラザで行われた。今回は、51社から169銘柄のビールおよび発泡酒が参加した。

 出品数の多かったビアスタイルは、前回と同様、南ドイツスタイル・ヘーフェヴァイツェン、ジャーマン・ピルスナー、ケルシュ、アルトの四種。いずれもドイツ発祥のビールであるが、スタイル規準にのっとりながらも、日本人の味覚にも合うように意識した造りで大いに好感が持てた。ピルスナーの一部にやや熟成不十分なものも混在していたが、全体的にみてアロマの造り込み、風味の調和、苦味と甘味のバランス、アフターテイストともに国際水準に達しており、とくにヘーフェヴァイツェンは本場ドイツの水準を凌駕していると言っても、決して過大評価ではあるまい。

 ドイツ発祥のスタイルが健闘している一方で、イギリス・アメリカ発祥のスタイルが出品数においても出来映えにおいても、今ひとつ生彩を欠いていたのは残念であった。5年ほど前までは、イギリスやアメリカ系のエールが審査会場を席巻し、ヴァイツェンは別にしてドイツ系スタイルは地味な存在であったことを思い起こすと、隔世の感がある。このコンペティションに見る限り、ヘーフェヴァイツェン、ジャーマン・ピルスナー、ケルシュ、アルトなどのドイツ・スタイルが、今や地ビールの主流となったようだ。

 こうした傾向は、地ビールの消費者層が拡大し、飲み口が軽く、みずみずしい喉越しを特徴とするビールが多く求められるようになったことの反映とする意見もあるが、豊かなフレーバーを楽しむ消費者も確実に増えてきている。フレーバー志向のニュー・ドリンカーを惹き付けるような新しいエールビールの開発にも、多くの地ビールメーカーに取り組んでもらいたいと思う。

 今回の審査では、そうした観点からも注目すべきビールが、少数ではあるが出品されていた。トマト、バジル、コリアンダーでフレーバーを造り込んだハーブ・スパイスビールと、抹茶を使って造ったハーブ・スパイスビールである。前者はトマトを、後者は抹茶を支配的なアロマとしながらも、ビールらしいアイデンティティーを損なうことなく、そのほかのフレーバーや苦味とのバランス・調和が見事である。しかも、飲み飽きることなく、何杯でもグラスを重ねることができるのがうれしい。

 バランスという観点からは、ベルジャン・ホワイトの中にも注目すべきものがあった。このスタイルの発祥はベルギーで、「ヒューガルデン」という銘柄が元祖とされている。今回は、ヒューガルデン以来の伝統的な風味原料であるコリアンダーやオレンジピールに加えて、さらに数種のスパイスと、米やコーンスターチなどの副原料まで用い、審査員を唸らせかつ魅了する出来映えのベルジャン・ホワイトが出品された。スパイス類を多用しているにもかかわらず、それらが上品にまとめられ、バランス・調和の美しさには秀逸極まるものがある。まさに「美味しい」というほか、このビールを形容する言葉はない。

 最後に、フリースタイル部門の印象に触れておきたい。この部門には、伝統的なビアスタイルにとらわれずブルーワーのオリジナリティを重視して造られたビールが出品される。正直言うと、これまでは「ブルーワーのオリジナリティ」があまりはっきりとは感じられないビールが多く出品されていた。そもそも「オリジナリティ」をビールに造り込むことは簡単ではないからだ。ところが、今回はすこし違ってきた。たとえば、ピルスナーをベースにアルコール度数を高めたものとか、トラディショナル・ボックをベースにホップ・アロマを強調したものとか、シュヴァルツビアを高温で発酵させてエステル香を付与したものなど、ブルーワーの意図や狙いがはっきりと感じられるビールがでてきた。こうした動きも「オリジナリティ」の一つとして重視したい。この調子で行くと、フリースタイルはますます賑やかになるだろう。今後が楽しみである。


 今回もビールをご出品いただいたビールメーカーなびに販売会社の各位には、心からお礼を申し上げる。また、ボランティアでビールの審査に参加してくださったブルーワーやジャッジの皆さん、準備・進行・管理にあたってくださったディレクターの方々には厚く感謝の意を表したい。

以上

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