ジャパン・アジア・ビアカップ2008 審査講評

   

“ジャパン・アジア・ビアカップ 2008” 審査委員長 田村功 
    
 「ジャパン・アジア・ビアカップ2008」には、内外のビールメーカー延べ60社より合計152銘柄のビールがエントリーされ、去る4月6日に東京都墨田区・すみだ産業会館において33名のジャッジによって審査が行われた。

 近年は日本の地ビールの品質向上が著しく、ジャッジ一同としては審査のテーブルに着くのが楽しみになっている。今年もまた、その期待を裏切らない出来映えのビールが多数を占めた。各テーブルに配られたビールを順番に口につけていくと、ジャッジの誰もが「これは3賞に絞り込むのが難しい」という思いにかられたものである。そのためか入賞ビールを決めるのに意見が分かれ、テーブルキャプテン(各テーブルのチーフ審査員)は調整に難儀した。

 「ジャパン・アジア・ビアカップ」の審査は「オリンピック形式」と呼ばれる。オリンピックでは競技種目が別れていて、種目毎にメダルが用意されている。「ジャパン・アジア・ビアカップ」の場合、競技種目に相当するのが「ビール・カテゴリー」である。そのため審査のテーブルでは、まず運ばれてきたビールがカテゴリーの基準に合致しているかどうかが問われる。合致していなければ、残念ながら不合格となる。これが第一の関門だ。

 第二の関門ではオフフレーバーの有無が問われる。オフフレーバーとは、DMS、ダイアセチル、T-2-N、日光臭、各種有機酸など、醸造管理上もしくは保管上の不手際によって生まれる異臭である。これらの異臭が目立つビールは、この段階で情け容赦なく除外される。続く第三の関門では、ビールの「状態」がチェックされる。熟成の不十分なビール、鮮度を失いかけているビール、酸化が進んでいるビール、雑菌に汚染されているビールは、この関門を通過することができない。

これら三つの関門をクリアしたビールは、客観的に見て「良質のビール」ということができる。今回行われた「ジャパン・アジア・ビアカップ2008」では、若干の例外は見られたものの、大部分のビールが三つの関門とも難なくクリアすることができた。そのため前述したように、審査員たちに「3賞に絞り込むのが難しい」と思わせる結果となったのである。

 最後の関門は、ビールとしての「魅力」のレベルだ。アロマ・フレーバーの魅力、バランスの魅力、アフターテイストの魅力、ドリンカビリティーなど、多様な視点から「魅力」がチェックされる。それまで三つの関門を通過しているビールでも、「魅力」の点でアピール度が低いと賞には残らない。金・銀・銅の3賞は「魅力の競争」に勝ったことの証明である。

 しかし、「魅力」というものは数値で客観的に表すことができない。だから、審査員の中で意見がまとまらないことがしばしばある。今回の審査では、ボトル/缶ビール部門の「ピルスナー・ファミリー」のカテゴリーで審査員たちの意見が大きく割れた。このカテゴリーにエントリーされたピルスナー系17銘柄中、二度の審査を勝ち抜いてきた6銘柄の中から3賞を選ぶ段階にきて、7人の審査員はそれぞれ意中のビールを主張して互いに譲らず、1時間を超す喧々諤々の議論のすえにようやく決着を見たのである。

 この「魅力」の審査では、上記の「ピルスナー・ファミリー」の他にも意見がまとまらず3賞決定に時間のかかったカテゴリーがいくつかあった。たとえば、ボトル/缶部門とケグ/ドラフト部門の「ヴァイスビール」、ボトル/缶部門の「ダークラガー」、ケグ/ドラフト部門の「ライトエール」「ダークエール」、ボトル/缶部門の「ケルシュ・アルト」などである。

 「ジャパン・アジア・ビアカップ2008」にエントリーされたビールに関する限り、日本の地ビールは国際的な観点からも非常に高いレベルをキープし続けていることが確信できた。また、「魅力」の点でも大手メーカーのビールとはひと味もふた味も違うつくりのものが多数出現しており、地ビールメーカーは自信を持って消費者にアピールできる時代に入っていることが痛感された。こうした状況を反映して消費者側にも地ビールを見直したり、地ビールに関心を持つようになった人たちがどんどん増えてきている。醸造関係の方々には、ここまで達成された地ビールの品質レベルをキープし続けるとともに、絶えざる切磋琢磨によりさらなる「魅力づくり」に努めていただきたい。また、流通・販売関係の方々には、世界のトップレベルに達している地ビールの品質を損なわずに消費者に届ける努力をお願いしたい。

 最後に、出品にご協力くださったメーカーおよび販売会社各位に衷心より厚くお礼を申し上げたい。また、無報酬で準備や審査に協力してくれたボランティアのみなさんにはこころから感謝の気持を表したい。

 以上

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