ジャパン・アジア・ビアカップ(ビール鑑評会)2010 審査講評

   

“ジャパン・アジア・ビアカップ2010” 審査委員長 田村功 
    

 「ジャパン・アジア・ビアカップ2010」の審査が、去る228日、東京・すみだ産業会館サンライズホールで行われた。52社より合計138銘柄のビールがエントリーされ、日本地ビール協会ホームページに掲載されているような入賞結果となった。

 ボトル/缶ビール部門とドラフト/ケグ部門を合わせてエントリーの最も多かったカテゴリーは、ピルスナー・ファミリー(ボヘミアピルスナー、ジャーマンピルスナー、ヨーロピアンピルスナーなど合計34銘柄)であった。

 近年、大手ビール・ブランドは発泡酒や第3のビールの宣伝に大きな力を注いでいるが、その一方で麦芽100%のピルスナー系ビールを発売するなど、正統派ビールの分野でも健闘している。そうした動きの中で、消費サイドでは「ビール風味飲料派」と「本格ビール派」の二極分化が起き始めているとみることができよう。むろん数字の上では「本格ビール派」は「ビール風味飲料派」に圧倒されているが、ここにきてあらためてピルスナーを見直そうという思潮が形成されつつあることは否めない。「ピルスナーの原点」をテーマに企画を進めているメジャーな雑誌もあると聞く。意識的かどうか分からないが、多くのクラフトビール・メーカーがそうした時代の流れに敏感に反応した結果が、「ジャパン・アジア・ビアカップ2010」に表れたと考えたい。

 さて、そのピルスナーの出来映えであるが、ボトル部門にエントリーされた22銘柄のうち2銘柄を除き「スタイル」「アロマ」「バランス」「アフターテイスト」「状態」のすべての項目で合格点をマークした。ケグ部門では12銘柄のすべてが合格点であった。どの銘柄が入賞してもおかしくない状況で、審査員の中からは「全部入賞!」という声も上がったが、「1賞1ビール」が原則であるため、多数決方式の採決を重ねて最後まで残った銘柄に賞が行った。

 両部門合わせてエントリーが二番目に多かったカテゴリーは、ヴァイスビール(南ドイツスタイル・ヘーフェヴァイツェン、同デュンケルヴァイツェン、同ヴァイツェンボックで計26銘柄)であった。なかでも20銘柄が出品されたヘーフェヴァイツェンは、オフフレーバー(ダイアセチル)が感じられた1銘柄を除いていずれも見事な出来映えで、ケグ部門ではこのスタイルが3賞を獲得した。ボトル部門でも、当初はこのスタイルで3賞が決まる気配が濃厚であったが、ただ1点しかエントリーのなかったヴァイツェンボックを押す意見が審査の途中から浮上し、3賞にはヘーフェヴァイツェン2銘柄、ヴァイツェンボック1銘柄という結果となった。過去の「ジャパン・アジア・ビアカップ」でも、ヴァイスビールはレベルの高い出来映えのものが揃っていたが、今回もその傾向は遺憾なく踏襲されており、日本の地ビールを代表するビアスタイルてあることに変わりがない。

 両部門合わせてエントリーが三番目に多かったカテゴリーは、アメリカンエール(ゴールデンエール、アメリカン・ペールエール、アメリカンIPA、アメリカン・アンバーエールで計20銘柄)であった。こちらは、前述の2つのカテゴリーと違って、残念ながら玉石混交であった。「アメリカン」らしい強い苦味、馥郁と立ちのぼるホップ・アロマに欠けていたり、苦味ばかりが強調されて甘味とのバランスが崩れていたものが多く見られ、中には水っぽかったり、酸味が強く感じられるものがあった。エントリーが多かった割には、出来映えの優れたものが少なく、ほとんど無競争に近いカタチで3賞が決まった観がある。

 そのほか、今年の審査で印象深かったのは、ベルジャンビールのカテゴリーであった。数年前と比べるとベルギー産と見紛うようなすばらしい出来映えの銘柄が増えたことは、大変嬉しいことである。

 その一方で、フルーツ系ビールは、エントリー数が年々増えてきている割には、優れたものが増えないのが残念だ。ホップの代わりにフルーツを使うといった安易な造り方では、口の肥えた消費者に受け入れられるような魅力的なフルーツビールは生まれないのではないだろうか。

 ともあれ、「ジャパン・アジア・ビアカップ2010」での審査に見る限り、多くのクラフトビールが世界水準に達する出来映えであることは、けっして間違いではない。「フレーバーの多様性」の点でも大手メーカーのビールの追随を許さない観がある。クラフトビールに関心を持つ消費者が着実に増えており、地ビール専門のビアパブも盛況で、曜日によっては満席で入れないような状況になってきた。醸造関係の方々には、こうした喜ばしい状況に油断することなく、さらなる「品質向上」と「魅力づくり」に努めていただきたい。また、流通・販売関係の方々には、世界のトップレベルに達している日本のクラフトビールの品質を損なわずに、しっかりと消費者に届ける努力をお願いしたい。

 最後に、出品にご協力くださったメーカーおよび販売会社各位に衷心より厚くお礼を申し上げたい。また、無報酬で準備や審査に協力してくれたボランティアのみなさんにはこころから感謝の気持を表したい。

 以上


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