ジャパン・ビアカップ2003 審査講評

   

“ジャパン・ビアカップ 2003” 審査委員長 田村功 
    
 ジャパン・ビア・カップ2003の審査会は、55社から143銘柄のエントリーを得て、4月6日に東京農業大学グリーンアカデミーホールで行われた。

 まず最初に、今回から新しく「フリースタイル」のカテゴリーが加わり、既存のスタイル基準にとらわれず自由な発想で造られたビールも参加できるようになったことを指摘しておきたい。これについては初めての試みなので参加ビールの数が少ないのではないかと懸念されたが、結果は15銘柄のエントリーがあって、創作意欲の強いメーカーが予想以上に多いことが実感された。その出来映えもなかなかのものであり、入賞したビールを例にとると、モルトの持ち味を非常にうまく引き出している作品や、色も香りも赤ワインを連想させる作品、あるいはハイアルコールでありながら甘さを抑えて後口をすっきりさせた作品など、期待を上回る上々の出だしであった。近い将来、このカテゴリーから日本独自のスタイルが生まれてきそうな兆しさえ感じられる。

 今年の審査会で最も強い印象を残したのは、「フルーツ/スパイスビール」のカテゴリーである。過去にエントリーされたビールと比較しても風味の調和・バランスが洗練されてきており、とくにフルーツビールは、香りづけに使っているラズベリー、パッションフルーツ、ハスカップなどをクドくなく上品に効かせるとともに甘味と酸味を爽やかに決めていて、いずれの作品もまことに洗練されたアペリティフやパーティードリンクに仕上げられている。入賞したビールと入賞できなかったビールの差は紙一重であった。これを見るかぎり、フルーツでアロマづけしたビールは甘味と酸味が大きな役割を果たしていることがよく分かる。フルーツビールの販売を検討しているメーカーの方にはおおいに参考になるだろう。

 「ジャーマンライトラガー」のカテゴリーはエントリー数が非常に多く、一度予選を行ってから決勝という経過をたどった。入賞したビールは甘味と苦味の調和がすばらしく、ポリフェノールからくる渋味を抑えてクリーンですっきりとした飲み口を造り出している。ライトラガーは風味全体がシンプルなビールであるから、渋味やエグ味が目立ちやすく、すっきり感に欠けてしまう。今回もそういうビールがかなり見られたが、この点の改善をメーカーの方々にぜひお願いしたい。

 「ジャーマンダークラガー」のカテゴリーについては、いずれも「味わい」の点では水準以上のものばかりであった。しかし、「スタイル基準」の観点から見るとホップの香り、フルーティーなエルテル香、有機酸による酸味のいずれかを伴っているビールが多く、審査においてはこれらが減点の対象になった。ダークラガーは、本来、重炭酸塩を大量に含むドイツ・バイエルン地方の水で仕込むため、ホップを効かせることがご法度である。さらに発酵温度が低いので、エステルや有機酸が多く生成されるということは発酵温度管理の不手際を意味する。ジャーマンダークラガーはそういう水質条件や醸造法のもとに生まれたビールであるから、ホップ香やフルーティーな香りや酸味がはっきりと感じられるダークラガーは、もはやダークラガーではなくなるわけだ。これらの問題点は「美味しさ」とは無関係なのだが、審査ではこういう点まで評価されることを知っていただきたい。いうまでもなく、入賞したビールはそうした点をクリアしている。

 英国系のビールについては、「ライトエール」「ダークエール」ともに秀作揃いであった。細かく見ていくと、ペールエールにエステル不足、ブラウンエールに苦味過剰なものが見られないこともなかったが、おおむねスタイルの観点からも風味バランスのうえからも申し分ないと言える。とくに入賞したペールエールは、爽やかなホップ香に加え心地よい苦味とみずみずしい口当たりを伴っていて、飲み飽きずに長く楽しめるビールに仕上がっている。同じく入賞したインディアペールエールは、スタイルにふさわしい力強い苦味を上品な甘味で和らげ、しかも華麗なエステル香で口中を馥郁と満たしてくれる。強いアルコールが造り出すフルボディの醍醐味を堪能させながら、後口は一転して爽やかな印象に変るというまことにドラマチックなビールである。

 「ヴァイスビール」は、いずれも甲乙つけ難い出来映えであった。今回はクローヴ香のほかにもバナナ香を伴うものが増え、いっそう複雑な香りが楽しめた。ヘーフェヴァイツェンについても酵母の風味を嫌味なく引き出しており、爽やかな中にも重厚なコクを感じさせるものが多かった。そうした中で入賞したヴァイツェンボックは、甘く完熟したバナナを思わせるエステル香とウイートモルトが造り出すまろやかなマウスフィールが一体となって、強烈で忘れ難い印象をもたらす。アピール度抜群のヴァイスビールであった。

 今回も、無報酬で準備や審査に協力してくれたボランティアのみなさんには厚く感謝の気持を表したい。また、前回にもまして積極的にビールを出品してくださったメーカーならびに販売会社の各位には、心からお礼を申し上げたい。入賞ビールは「シャパン・ビア・フェスティバル大阪」(5月3〜4日、於・梅田スカイビル、タワーウエスト10F)および「シャパン・ビア・フェスティバル東京」(5月31〜6月1日、於・恵比寿ガーデンプレイス、ザ・ガーデンホール)で試飲できるので、多くのビール愛好者のご来場をお願いする次第である。

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