ジャパン・ビアカップ2004 審査講評

   

“ジャパン・ビアカップ 2004” 審査委員長 田村功 
    
 ジャパン・ビア・カップ2004の審査会は、55社から151銘柄のエントリーを得て、4月25日に大阪・新梅田スカイビルで行われた。出品にご協力くださったメーカーおよび販売会社各位に厚くお礼を申し上げる。

 まず最初に、審査員に強い印象を残した3部門のビールについて記しておきたい。それらは「ジャーマン・ライトラガー」「イングリッシュ・ダークエール」および「フリースタイルビール」である。

 その「ジャーマン・ライトラガー」についてであるが、この部門にエントリーされたビールは26銘柄で、うちピルスナーがジャーマン・スタイル、ボヘミア・スタイル、ヨーロピアン・スタイルを合わせて23銘柄を数えた。いずれもが見事な出来映えであった。このカテゴリーに属するビールの特徴は、淡色であってローストした麦芽の風味を持たない。また比較的低い温度で発酵させることから、エステル系の香りも希薄である。それゆえビールの味わいを損なうオフフレーバーが目立ちやすい。今回エントリーされたビールは、オフフレーバーのコントロールに成功しており、クリーンで洗練された飲み心地をつくりだしていた。そのなかで入賞を射止めたのは、バランスと鮮度に秀でたビールである。

 「イングリッシュ・ダークエール」は、ライトラガーとは対照的にローストした麦芽の風味を強調したビールで、しかも高温で発酵させるためにエステル香を伴う豊潤な味わいを特徴とする。オフフレーバーが目立ちにくいという利点があるが、一方でバランスのとれたクセのない味わいをつくりだすことが難しい。この部門に参加したビールは11銘柄であったが、いずれもロースト麦芽から出がちな重い焦げ臭やエグ味が抑えられ、甘味と苦味が心地よく調和しており、そろってドリンカビリティの高さを誇っていた。最後は、アフターテイストの点でもっとも印象の良かった3銘柄が、入賞ビールに選ばれた。

 「フリースタイルビール」は前回から新しく加わった部門である。既存のスタイル基準にとらわれず自由な発想で造られたビールは、どれでもこの部門にエントリーできる。今回は12銘柄が出品されたが、いずれのビールからも"ユニーク性への挑戦"が感じられ、これが審査員の印象に強く残った。ただ、出来映えについては、高いレベルに達しているものもあったが、ユニーク性にこだわり過ぎて全体のバランスがおろそかになっているビールが多かったのは残念である。結局、風味の印象、バランス、アフターテイスト、ドリンカビリティなどの総合点で他を圧したビールが3賞に残った。

 「ヴァイスビール」部門については、昨年の出来映えがおしなべて好調であったのに比べて、今年はどうしたわけか全体的に低調な感じをまぬがれない。この部門にエントリーされたビールの数は15銘柄とけっして少なくはなかったが、入賞したビールを含むいくつかを除くと、ヴァイツェンに欠かせない「みずみずしさ」「クローヴ香」「フルーティー・アロマ」の乏しいものや、小麦麦芽がもたらす豊かな泡立ちとほのかな酸味という基準を満たしていないものが非常に多かった。苦味が基準より強く、"スタイル外れ"と指摘されたものも少なくない。逆に、ドリンカビリティに関してはおおむね遜色がないので、スタイルを問題にしない「フリースタイル」部門にエント
リーしていれば、あるいは高い評価点を得ることができたかもしれない。

 「アメリカンエール」部門については、以前のようなホップのアロマとビタネスを過剰に効かせたビールが少なくなり、今回は全体のバランスを整えて抵抗感のない上品な味わいと高いドリンカビリティを持たせたビールが増えた。このように、アメリカン・ペールエールやアンバーエールが他のスタイルよりもホップを強調しつつ調和のとれた清涼な味わいを呈し、しかも高いドリンカビリティを備えるようになれば、これまで以上に多くの消費者を魅了することができるであろう。入賞ビールは、そうした清涼さ・飲みやすさを備えながら、それぞれはっきりとした個性の違いを打ち出しているところが高く評価された。

 「イングリッシュ・ライトエール」部門に関しては、本来は良いビールであると思われるのに鮮度が落ちているために入賞圏外になったものが少なくなかった。この部門にかぎらずライト系のビールは、鮮度が落ちるとホップのアロマが濁り、甘味と苦味の調和が崩れ、渋味が増加し、アフターテイストが悪くなりやすい。当然、ドリンカビリティも低下する。したがって、今回入賞するか否かはひとえに鮮度にかかっていたと言ってよい。

 以上、ジャパン・ビアカップ2004の審査を通じてとくに印象に残ったことを記したが、ここに触れなかった部門を含め、全般的にはビールの品質が年々向上しているという確かな手応えを感じている。ビールメーカー各位には、自信を強く持っていっそう努力を続けてくださるようお願いしたい。また、次回のエントリーにあたっては、ビールの出荷の際に保冷剤を入れるなど可能なかぎり鮮度を保つ対策をとっていただければ、より良い状態で審査をうけることができるのではないかと思われる。

 最後に、来年はスタイル・ガイドラインの改訂に合わせて審査するスタイルが少し増えることをお伝えしておきたい。日本地ビール協会のスタイル・ガイドラインはワールド・ビアカップのそれと同じものを用いており、今年が改訂の年である。改訂にともない下記の13項目のスタイルが新しく追加され、近じか適用される予定である。

 ハイブリッド/ミックス・スタイル
    1. 木樽/ウッドチップ・エイジド・ビール
       (リアルエールもしくはカスクコンディション・ビール)
    2. フルーツ・ウィートビール
    3. ベジタブルビール
    4. チョコレート/ココア・フレーバード・ビール
    5. スペシャルティ・ハニーラガー/ハニーエール

 ラガー
    6. アメリカンスタイル・メルツェン/オクトーバーフェスト

 エール
    7. イングリッシュスタイル・サマーエール
    8. トラディショナル・ストロング・スコッチエール
    9. モダーン・ストロング・スコッチエール
    10. アメリカンスタイル・ストロングペールエール
    11. インペリアル・インディア・ペールエール
        またはダブル・インディア・ペールエール
    12. インペリアル・レッドエールまたはダブル・レッドエール
    13. ライヒト・ヴァイツェン/ヴァイスビア


以上


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