ジャパン・ビアカップ2005 審査講評

   

“ジャパン・ビアカップ 2005” 審査委員長 田村功 
    
 ジャパン・ビア・カップ2005の審査会は、46社から130銘柄のエントリーを得て、4月24日に東京都墨田区・すみだ産業会館で行われた。出品にご協力くださったメーカーおよび販売会社各位に衷心より厚くお礼を申し上げたい。

 今回の審査を通じて得た審査員の共通した印象は、ジャーマン・ライトラガー系ビールの健闘である。まずエントリー数のうえで全体の23%を占めて他部門を圧した。同時に、品質的にも昨年と比べて著しいレベルの向上が見られた。このカテゴリーに属するビールの特徴は、淡色であってローストした麦芽の風味が希薄である。また比較的低い温度で発酵させることから、エステル系の香りを持たない。そのため雑味やオフフレーバーがあれば、たとえ微量でも目立ちやすい。鮮度の低下も、味に敏感に影響する。造り手にとっては難しいビールであるが、今回エントリーされたビールには、そうした難問をクリアしているものが非常に多かった。それだけに入賞争いは熾烈を極め、最終的には風味のバランスに秀で、かつクリーンで洗練された飲み心地を持つビールに軍配が上がった。とはいえ、風味のバランスやクリーンな味わいはビールの鮮度が落ちるとたちまち損なわれるので、<入賞する・しない>の分かれ目は造ってから審査の時点までの保存状態にも左右される。したがって、今回入賞したビールは鮮度管理の勝利であると言っても過言ではない。特に金賞となったビールは、鮮度の点で抜きん出ていた。メーカーにとっては、優れたビールを造ることと同時に、出荷から消費者の手に渡るまでの鮮度管理システムの構築が、これからの重要課題であろう。

 ジャーマン・ダークラガー系は、本来、ライトラガーとは対照的にローストした麦芽の風味を強調したビールであるが、残念なことにこの部門にエントリーされたビールの約半分は麦芽とは逆にホップ風味が強調されていた。たとえ素晴らしく美味しいビールに仕上がっていても、これではスタイルから外れているため入賞はおぼつかない。ダークラガーは、本来、重炭酸塩を大量に含むドイツ・バイエルン地方の水で仕込むため、ホップのアロマや苦味を強く効かせることがご法度である。そういう水質条件のもとに生まれたビールであることを知っていれば、ホップを強調したビールにはならないはずである。入賞した3点は、麦芽風味を重視しながらバランスとアフターテイストに秀でたものの中から選ばれた。ちなみに、ホップ・アロマを特徴とするダークラガーにこだわるなら、伝統的なスタイルを重んじるジャーマン・ダークラガー部門ではなく、自由な発想が許されるフリースタイル部門で勝負をかけるべきである。

 ヴァイスビール部門は例年と同じようにエントリー数が多かったが、出来栄えについてはバラツキが目立った。昨年もヴァイスビールは低調であったが、揃ってレベルの高さを見せてくれた2003年をピークに、だんだんと元気がなくなってきているように思われてならない。入賞したビールは別にして、まず「ヴァイツェン香」と呼ばれるクローヴのアロマが感じられないものが多々あった。これではヴァイツェンのスタイル条件を満たしていない。次に泡立ち・泡持ちの点でもスタイル条件を満たしていないものが多い。本来、フルボディないしフルに大きく寄ったミディアム・ボデイでなければならないマウスフィールも、どうしたことかライトボディに造られているものが少なくない。こういう傾向の一因としては、酵母の選択に問題があるのかもしれないし、小麦麦芽の使用量が不足しているとも考えられるが、そうではなくて消費者の声に応えた結果であるとすれば、これまで本格的なヴァイツェンを理解して買ってくれた大切な顧客を失うことになるのではないだろうか。

 低調ということでは、ジャーマン・エール部門のアルトビールについても同じことが言える。同部門のケルシュについては、いずれもがスタイル的にもバランス的にも甲乙付け難い高いレベルに仕上がっており、結果的には鮮度の高いビールの中から3賞が選ばれた。なかでも金賞となったビールは秀逸である。これに対してアルトビールは、ホップとモルトのバランスに問題があったり、苦味が不足していたり、ボディが軽過ぎたり、エステルが感じられたり……というわけで、賞に値するものが一つも見出せなかった。そのため、金・銀・銅ともケルシュから選出される結果となってしまった。アルトビールの健闘を切に望みたい。

 イングリッシュ・ライトエール部門では、スタイル条件から逸脱しているビールが皆無であった。オフフレーバーについても許容範囲、風味のバランスも文句なく、揃って完成度が高かった。したがって、こちらも鮮度や状態の良し悪しが入賞の決め手となった。

 イングリッシュ・ダークエール部門については、出来栄えに大きなバラツキが見られた。とくに風味の特徴がスタイル条件から著しく逸脱しているビールがポーター系にもスタウト系に多々あり、スタイル的に問題がなく、かつバランスや状態の良いビールが賞に残る結果となった。
 アメリカン・エール部門については、ペール系はドングリの背比べで際立ったものが見当たらず、ダーク系に賞が集中した。

 フリースタイル部門は3年前に始めた新しいカテゴリーであるにもかかわらず、伝統的なカテゴリーに負けない数のエントリーがあった。今回は、フルーツや野菜で風味づけしたものが賞を射止めたが、こういうビールだけがフリースタイルと誤解しないでいただきたい。たとえばホップを聞かせたダークラガーのように伝統的なスタイルからはみ出すビールが、もっともっとこの部門にエントリーしてくることを期待している。フリースタイル部門はブルーワーの自由なクリエイティビティーを評価し顕彰するために設けられていることを、ここに改めて強調しておきたい。

 以上、エントリー数の多かった主要な部門にについて審査の感想を述べたが、総体的に見て年々レベルが向上していることは今回も強く感じられた。今年については、とくにピルスナー系を含むジャーマン・ライトラガーの進歩が際立っている。長期にわたる消費の低迷の中でも、品質の高いビール、本格的なビールを求める消費者は決して少なくない。そうした成熟した消費者に対していかにアピールするか、その手法が問われる時期にきているのではないだろうか。

 今回も、無報酬で準備や審査に協力してくれたボランティアのみなさんには厚く感謝の気持を表したい。また、景気の逆風が依然としておさまらない状況にもかかわらず積極的にビールを出品してくださったメーカーならびに販売会社の各位には、心からお礼を申し上げたい。

 入賞ビールは「シャパン・ビア・フェスティバル大阪」(5月7〜8日、於・梅田スカイビル、タワーウエスト10F)および「シャパン・ビア・フェスティバル東京」(5月7〜8日、於・恵比寿ガーデンプレイス、ザ・ガーデンホール)で試飲できるので、多くのビール愛好者のご来場をお願いする次第である。


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